文化庁は音楽CDなどの海外専用版の日本への逆輸入を、海外発売から一定期間に限り差し止められる制度を導入する。現地の物価水準に合わせて発売される安価な海外版が国内に流入しにくくなるため、レコード会社は海外市場を開拓しやすくなる。ただ消費者利益を損なうとの消費者団体などの声に配慮し、差し止め期間は5年程度とする。  レコード会社は日本に輸出しないことを条件に海外のレコード会社に邦楽の販売権を与えているが、卸や小売店を通じてCDが持ち込まれても現行の著作権法では阻止できない。音楽CDは中国の場合で1000円以下で販売されており、3000円程度が主流の日本国内との価格差から、1年間に海外で販売されるCDの15%に当たる68万枚が逆輸入されている。

日本ではまた独特の問題がありますね。たとえば、漫画やアニメやゲームは、いまもっとも注目されているコンテンツ産業であり、同時に長いあいだオープンソース的な伝統(コミケ)で作品を生産してきたという利点をもっている。そういう意味では、放っておいてもちゃんとコモンズが成立していたのです。ところが、ここになって急に業界全体が著作権強化に向い始めている。これはグローバル化と関係がある。海外進出を本気で考え始めたら、先方の基準で権利強化を図るしかない。しかし、そうやって知的財産権をガチガチにかためると、今度はいままでのコミケ的伝統との整合性が取れなくなる。その矛盾をどう解決するかが、今後の課題になるでしょう。■池田東さんの意見が、なぜか経済産業省の皆さんの意見とわりとよく似てますね。彼らも、アニメやゲームが日本の有望な産業になると見ている。しかし、私は産業としてそんなに大きくなるかどうか疑わしいと思うし、なることがいいかどうかもわからない。ポール・ローマーという経済学者が言っていることですが、音楽産業は全世界で360億ドルぐらいで、GDPの誤差以下だと。CDのディスクの原価は5円くらいらしいですが、それに音楽を録音して2000円くらいで売って、この独占権を法的に守っている。いわば400倍の税金を消費者にかけているわけです。しかし2000円で1万枚しか売れないCDも、100円で売ったら100万枚売れるかもしれない。ローマーの計算では、こういう異常な価格設定によって音楽産業の得ている利益よりも、消費者の損失のほうがはるかに大きい。ミュージシャンがウェブで音楽配信をして、仲介業者が料金を徴収できれば、レコード会社なんかいらないわけです。■東とはいえ、いわゆる「文化産業」が本当にそういう経済的なモデルで分析できるかどうかは、分かりません。そもそも文化的な消費の場合、消費者の行動がまったく合理的ではない。だいたい、本当に音楽の好きな人やアニメを見たい人はごく少数でしょう。にもかかわらず、文化産業が産業として成立するためには、嫌な言い方ですが、品質が分からない大衆に無理して買わせなければならない。だからこそ、莫大な広告費を投入し、とにかく店に商品を一杯並べることが必要になる。そして、出版から音楽までみな歪んだ構造になる。こういうのは、アドルノ=ホルクハイマーのころから指摘されていることで、二〇世紀後半の一般的な問題ですね。そして、いまの問題は、経済のグローバル化に呼応して文化産業の肥大化もますます進行していて、日本市場内では勝ち組だったアニメやゲームも、そういうグローバルな競争に勝てるかどうかかなり怪しいということです。これはコモンズがどうとか、創造性がどうとかいう話とは、レベルの異なる話題です。単純にカネの話ですね。ところで、池田さんの誤解を解いておくと、僕は別にコンテンツ産業を「有望な産業」と見ているわけではないのです。マンガ・アニメ・ゲーム系作品については、むしろ、その支援を「産業振興」の枠組みで捉えるべきではない、というのが僕の考えです。そんなことをしてもどうせディズニーに適うわけがないし、その「産業振興」のため、知的財産権 を強化し国内のコモンズをズタズタにしていくことに長期的なメリットがあるとは思えないからです。池田さんもどこかで指摘されていたように、産業としてみれば、音楽産業は豆腐産業とほぼ同じ市場規模(年間約5000億円)でしかない。コンテンツの価値はそういうところにはない。